最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)690号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔要旨〕増資新株引受申込期間中に白紙委任状附株金払込領収証の授受を目的としてなされたいわゆる増資新株の売買は、いわゆる権利株の譲渡を目的とした売買と認むべきであつて、その譲渡については商法第一九〇条の適用がある。
〔説明〕株式取引界においては、会社の増資決議(新株発行の決議)があると直ちに未だ成立しない新株を目的として取引を開始するのが実情のようである。この場合でも新株の引受が完了した後、その引受による権利をもつて取引の対象とした場合には、その譲渡についてはいわゆる権利株の譲渡として商法第一九〇条の適用を見るから格別問題を生じない(株金払込領収証に白紙委任状を添附して流通させる商慣習は、かかる権利株の譲渡に関する商慣習と認められる)。しかし新株の引受が未だ確定しない以前にかかる新株を目的としてなす取引を法律上いかに理解し、その効力をどう見るべきかについては一個の問題たるを失わない。この場合には新株の引受による権利は未だ具体的に発生していないから、これを目的とした取引と見ることは観念上不可能である。しかしこれを文字どおり増資(新株発行)による新株を目的とした取引と見ることも、新株は未だ成立していないから同様に不可能といのほかはない。畢竟かかる取引は将来成立すべき権利株もしくは新株の授受を目的とした取引またはそれらの成立を条件とした取引と解するのほかないであろう。そしてその目的が権利株なのか或いは新株なのかは、結局当事者の意思解釈によりこれを決するのほかなく、いわゆる白紙委任状附株金払込領収証の授受をもつてその履行を了わる趣旨であるときは、その取引は権利株を目的としたものであつて、その譲渡については商法第一九〇条の適用があると解すべきであろうと思う。もちろん増資(新株発行)発効後は、株式の引受による権利は株式(株主権)と化するわけであるから、白紙委任状附株金払込領収証の授受を目的とした取引であつても、特に株式の授受を目的としたものと認められる場合もあるであろうが、通常は株式成立の前後を問わず白紙委任状附株金払込領収証の授受をもつてその履行を了わるとするのが、この種取引における当事者の意思と見るべく(株式申込証拠金領収証に白紙委任状を添附して流通さす場合を考えれば、特にそうである)、また権利株の譲渡も株券発行前の株式譲渡もその効力においては全く同様であるから(後者については商二〇四条)、この種取引については、むしろ商法第一九〇条の適用があると包括して考えてよいのではないかと考えられる。しかしいずれにせよこの種の取引を全然無効とする根拠はないであろう。
本件は昭和二五年の改正法施行前の事案であつて、増資新株引受申込期間中に、受渡を株金払込領収証に白紙委任状を添附してなす趣旨でした増資新株売買の効力が問題となつたものである。上告論旨は、株式引受の確定前における増資新株の売買はこれを株券発行前の株式の売買と認むべきであつて、株式の引受による権利の売買と認むべきでなく、かかる売買は民法第九〇条により無効であるというのであつたが、本判決は要旨のように判示して、本件取引は権利株の売買に包含せられるものとしてその譲渡については商法第一九〇条を適用すべきものとした。
株式引受確定前になされるい、わゆる増資新株の譲渡について、伊沢「註解新会社法」二九五は「株式引受の未だ確定せざる場合と雖も本条(商一九〇条)の適用を妨げないと共に会社の成立を条件とする株式譲渡の契約の如きにも亦適用がある」とするが、佐々木等釈義六二は「権利株の譲渡と称して、株式引受人より……会社設立を停止条件として生ずべき将来の株式の譲渡を意味することもあり得る。之は然し乍ら……権利株ではなく、実は寧ろ普通の株式の譲渡であ」るとして商法第一九〇条の適用を否定する。なお判例は、昭和一三年の改正前の商法第一四九条但書につき、株式引受確定前の譲渡またはその予約についても同条但書の適用を妨げないとし(明四三・九・二六民録一六、五六八)、また会社成立を条件とする株式譲渡契約も同条但書にいう予約に属するとする(昭六・四・一商判一九九)。
(長谷部調査官)